ここのところ、インフレーションが日本にも忍び寄っていることは明らかですが、コアコアCPIが依然としてマイナスなので、日本はいまだにデフレーションだと固く信じている(自分に言い聞かせている)方々もいらっしゃいます。
この記事では、なぜコアコアCPIにばかりこだわるのが不適切なのか見ていこうと思います。
まず、コアコアCPIの定義を確認しておきましょう:
物価の平均的な変動を測ることを目的に全国の世帯が購入したモノやサービスの価格を指数化した「消費者物価指数(CPI)」の一つで、天候や市況など外的要因に左右されやすい食料(酒類を除く)とエネルギーを除いて算出した指数の俗称。
証券用語解説集 – 野村證券
つまり、総合指数から食料やエネルギーの価格を抜いて作った価格指数です。なぜ、わざわざ多くの品目を抜いてそのような価格指数を作るのでしょう。日銀はその理由を以下のように説明しています:
物価動向の分析にあたっては、現実に観測される消費者物価の動きから、様々な一時的要因の影響を取り除いた、基調的なインフレ率(いわゆる「コア指標」)がよく利用されています。
基調的なインフレ率を捕捉するための指標 – 日本銀行
つまり、エネルギーや食品の価格は一時的に上がってもすぐに下がってくることが多いから、平均的なトレンドを見る上では邪魔になってしまう、ということです。
これは本当なのでしょうか?
試しに、アメリカの都市部における総合CPIとコアコアCPIを以下のグラフで比較してみましょう。
上図では、青が総合CPI、赤がコアコアCPIを示しています。
1980年代半ばから2020年に至るまでの、インフレが穏やかないわゆる「Great Moderation」の時期を見る限り、コアコアCPIが基調的な価格指数である、という指摘は正しいように見えます。
つまり、青い線が大きく平均からブレる一方で、赤い線はなめらかなトレンドを示しています。
ところが、1970年代や最近の高インフレの時期には、赤い線が青い線に遅れて増加しており、基調的な指数というより、コアコアCPIはただの遅行指標に成り下がってしまっていることがわかるかと思います。
なぜこのようなことが起こってしまうのでしょう?
それは、インフレはインフレ予想によって決まるものだからです。
物価研究の大家である東大の渡辺努先生は、著書で以下のように述べています:
値段を決める人たちは、いま決めた値段が将来にわたって維持されるという認識のもと、先々の価格がどうなるかの予想を踏まえて今日の値段を決めると言うことを行います。
物価とは何か – 渡辺努
このインフレ予想というものが厄介で、実際に身近なモノやサービスの価格が上がると、物価の上昇を実感し、今後も物価の上昇が継続するだろう、と人々は予想するようになります。
すると、そのインフレ予想が実際にインフレに反映される、というループの構造になっているのです。
これまでの数十年間、インフレ予想はそれほど大きく変化することはなかったと言えるでしょう。そのような時期においては、エネルギーや食料品の価格上昇は一時的で済んだので、基調的なインフレを見るのにコアコアCPIが適していました。
日本においても、デフレ予想が非常にしつこく、黒田総裁がいくらバズーカをぶっ放してもびくともしないものでした。
しかし、アメリカにおいても日本においても、最近は人々のインフレ予想が明らかに上昇しつつあります。
このような時期においては、コアコアCPIは、インフレ予想を形成する大事な要素であるエネルギーや食料品の価格を考慮に入れない不適切な物価指数と化してしまうでしょう。実態のインフレ率を何ヶ月も遅れて捉えることしかできないので、個人の対策や、金融政策にも使うべきではないはずです。