2021年現在、日本の一般政府(国・地方自治体・社会保障基金)の総債務残高はGDP比で256%、純債務残高は172%に達しています。(2021年4月時点におけるIMFの推計)
歴史的に、ここまで財政を悪化させた国家はたいていの場合、デフォルトかハイパーインフレを経験しています。
しかし、過去にはこのレベルの債務残高から財政再建を成し遂げた国家も存在しています。第二次世界大戦後のイギリスです。
この記事では、どのようにしてイギリスは財政再建を成し遂げたのか、そしてなぜそれが日本には再現が難しいのかを検証します。
イギリスが財政再建に成功した3つの要因

上記のグラフの通り、第二次世界大戦後のイギリスは、莫大な戦費負担により、公的債務残高がGDP比で270%にまで達していました。しかし、それからの30年間で、この値を約50%にまで減少させることに成功しています。
イギリスの予算責任局によれば、これはいくつの要因の合わせ技によるものですが、ひとつ目の要因はプライマリーバランスの黒字化です:
1946年からの30年間、基礎的財政収支は平均でGDP比1.6%の黒字だった。
Post-World War II debt reduction – Office for Budget Responsibility
日本のプライマリーバランスは、2021年度の一般会計予算案において20.4兆円の赤字となっています。第二次世界大戦後のイギリスを目指すのであれば、30兆円弱収支を改善しなければならないことになります。
ふたつ目の要因は経済成長です。該当する30年の間、イギリスは名目で年率8.8%、実質で年率2.3%の経済成長を達成しています。
それだけ高い経済成長率を維持することができれば、当然GDP比の債務残高は分母が大きくなって全体の値は小さくなりますし、税収も増加してひとつ目の要因であるプライマリーバランスの改善にも寄与するでしょう。
そして最後にインフレーションです。
実質成長率+物価上昇率(インフレ率)=名目成長率
GDPと成長率、算出方法をおさらい – 日本経済新聞
上記の計算式に当てはめると、名目で8.8%、実質で2.3%の経済成長を実現したということは、イギリスは年率平均6.5%のインフレ率を経験したことになります。ハイパーインフレというほどではありませんが、30年もの間この高さのインフレが続いたのですから、国民の生活はなかなか苦しかったでしょう。
これほどのインフレ率でありながら、金利が暴騰しなかったのは興味深いことです。イギリスの予算責任局はその要因としてブレトン・ウッズ体制下の固定為替相場などをあげていますが、このあたりの解説はまた別記事としたいと思います。
現在の日本には再現が難しい
以下の図は日本の過去20年の実質経済成長率を表しています。

ひと目でわかるように、過去20年の間、日本は大不況からの回復期にしか2%を超える経済成長率を実現していません。通常時は1%前後をうろうろしているようなありさまであり、過去のイギリスのように財政再建に大きく寄与するような経済成長を実現するのは今後も難しいでしょう。
経済成長が難しいのであれば、プライマリーバランスを改善するには増税か財政支出の削減しかありません。しかし、以下の記事からも明らかなように、プライマリーバランスを黒字化するという目標はどんどん先延ばしにされています。
政府の経済財政諮問会議は7月8日、20年度の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の原案を示したが、そこには財政再建に関連する経済財政一体改革の章はなく、これまで明記されてきた2025年度までの基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標も示されなかった。
焦点:「骨太」から消えた財政再建目標、自民に撤廃論 市場は先送り警戒
経済成長の助けを借りずに財政再建を果たすには、社会保障支出を削減したり消費増税をする必要がありますが、これはどちらも極めて不人気な政策です。直近の選挙が気になる政治家にはなかなか取り組むのが難しいのでしょう。
そこで、最後の頼みの綱はインフレということになります。イギリスでは平均6.5%のインフレが長期にわたり継続することで、債務残高が削減されました。
この比較的高いインフレをハイパーインフレにすることなく何十年も続けるというような綱渡りは、現在の日本ではおそらく不可能でしょう。このことは別の記事でまた解説していきたいと思います。